2012年4月30日月曜日

ボストンの交通

きちんとボストンの交通機関について調べていけばよかったのだが、中途半端な知識のまま出かけてしまったために、ひどく混乱してしまうという苦い経験をしてしまった。
なので、反省をふまえて今後のために備忘録に残しておく。

ボストンでは公共交通機関が発達しており、路線ごとに Red Line とか Green Line といったぐあいに色で識別されていてとても便利である。
(ちなみに、Red Line, Green Line, Orange Line, Blue Line はそれぞれ地下鉄。)
自分の泊ったホテルは Silver Line 沿いにあったため、空港から Silver Line という名前の地下鉄に乗るというイメージを思い描いていた。

ところが、だ。
いろいろうろつきまわっても、空港には地下鉄が見当たらないのである。
空港の人に Silver Line がどこかと訊ねても、空港の外のバス通りを教えてくれるだけ・・・。

すっかり思考のポケットにはまりこんでしまった形だったのだが、Silver Line が地下鉄ではなくてバスだと気づくのに1時間ぐらいかかってしまっただろうか・・・。
違う種類の乗り物ならば、"Subway Map"に載せてほしくなかった・・・。

その Silver Line なのだが同じ停留所(駅)を通るバスでも、なぜか一部は道路を走り、一部は地下鉄のようなところを走っている。
往きが道路だったので、当然帰りは道路の逆側に停留所があるはず・・・と思っていたのに見つからず、実は近くに駅があって、その中を地下鉄のように走っていたりする。

右上の写真は "World Trade Center" で撮ったものなのだが、地下鉄のような改札口を通って階段を降りると、この写真のようにバスのための地下道があるというわけだ。
ホテルの人の助けがなかったら、ここには行き着けなかったと思う。

ボストンからの帰りは JAL の直行便で、快適なこと、この上なかった。
真新しい飛行機で、窓のそばのボタンを押すと、窓に段階的に日よけ用に色が少しずつついていくようになっていたりする。

着陸前に高度を下げた際に水が滴り落ちる現象はあったものの、たいして気にならない。
自分用のスクリーンでマンガを読むことができるというサービスも目新しかった。

2012年4月29日日曜日

Thoracic Anesthesia Symposium --- 第2日

4/28 (土) 晴れ

第2日とは言っても最終日なので、午前中にワークショップと教育講演、および pros&cons があっただけで終わりとなった。

ワークショップは4つの場所を30分ごとにくるくる回るというもので、どこから回り始めるかがあらかじめ指定されている。
自分の場合は 挿管困難 → 気管支ブロッカー → 傍脊椎エコー → 肺のエコー と回るようになっていた。

なぜかよくわからないが、挿管困難のワークショップでは GlideScope が紹介されず、そのかわりにダブルルーメンチューブ用のエア・トラックが紹介されていた。

ダブルルーメンチューブを気管支ファイバースコープを使って挿管しようとしても必ずしもうまくいかないのは、ファイバースコープの長さがタブルルーメンチューブの挿管には十分ではないということに加え、先端がシングルルーメンチューブよりも固いこととか、ファイバースコープの径とチューブの内腔の間のアソビの部分が問題になるからなのだそうだ。

会場にいる麻酔科医の経験としては、挿管困難患者では一度シングルルーメンチューブを入れて、それからダブルルーメンチューブに入れ替えるという人が多いようだった。
チューブの径は失念したが、困難気道モデルのマネキンを用いたデモでは、シングルルーメンチューブに 14Fr と 11Fr のチューブエクスチェンジャーを1本ずつ入れて、それぞれダブルルーメンチューブの気管ルーメンと気管支ルーメンを通して入れ替えるという方法を紹介していた。

気管支ブロッカーのワークショップではさまざまなブロッカーが紹介されていたが、ちょうど隣が挿管困難のワークショップだったということもあり、挿管困難にも大いに役に立つという印象が非常に強くなった。
ICU への帰室時に、ダブルルーメンからシングルに戻さなくてもいいし・・・。

Cohen の意見としては、左肺の切除や右の中または下葉切除ではどちらでもいいのだが、右上葉切除の症例ではCohen のブロッカーが Fuji ブロッカーに優るとのこと。
Cohen のブロッカーは先端が柔らかいので抜けないが、Fuji ブロッカーは先端が硬いので術者の操作によって抜けてしまうらしい。

(余談: 第1日の夜の懇親会の時に富士システムズの方とお会いした時に教えていただいたのだが、どうやら 「Fuji ブロッカー」という呼び方は正しくないのだそうだ。しかし Narayamaswamy らの論文などで Fuji ブロッカーはある意味世界的に有名になったと思うし、バンクーバーの指導医も Fuji ブロッカーと呼んでいたぐらいなので、これからの修正はいろいろな意味で難しいかも・・・と思う。)

傍脊椎ブロックのワークショップでは、名古屋大学の Dr. Shibata のエコー画像が紹介されていた。
Shibata T, et al.  Anesth Analg 2009; 109: 996-7.
どうやら、エコー上で横突起や肋骨の影と壁側胸膜の間に薬液を投与するのがコツのようで、うまくいくと壁側胸膜が(患者の)前方に移動するらしい。
傍脊椎ブロックのやり方は決してひと通りではなく、さまざまなやり方がある。
バンクーバー時代の指導医が自身のやり方を主張していたが、ワークショップの担当者との間でいまひとつ話がかみあっていないような印象を受けた。

術野から入れるという方法もあり、Sabanathan という外科医が 1988 年に行なったのが初めてらしい(?)。
壁側胸膜外をはがしてポケットのような空間を作り、そこをめがけて皮膚の上から針を刺してカテーテルを挿入する (Sabanathan Technique) とのこと。

傍脊椎ブロックはしばしば硬膜外ブロックと比較されるが、傍脊椎ブロックのやり方によって結果はずいぶんと変わってくるのだそうだ。
たとえばエコーを用いずにブラインドで傍脊椎ブロックを行うと (Messina M, et al.  Minerva Anestesiol 2009; 75: 616-21)、傍脊椎ブロックを過小評価するような結果につながることになる。

それから、傍脊椎ブロックは "extrapleural block" と同義らしいということを初めて学んだ。
恥ずかしながら自分のホームページでは別物として扱っていたので、帰国したら修正することにする。

教育講演は面白かったが、備忘録に残すようなことはそんなになかったような気がする。
話の流れから、"breath down" というのは吸入麻酔薬で導入することを意味するらしい(?)ことを知った。

Pros & Cons は誤解を恐れずに言えば、完全にアソビの範囲内だったと思う。
患者にどのサイズのダブルルーメンチューブを用いるかとか、つねに左用のダブルルーメンチューブを用いるのがいいかどうかとか、エビデンスに基づく診療というよりも、個々の麻酔科医の信念に基づくことがらについて扱ったもの。

2012年4月28日土曜日

Thoracic Anesthesia Symposium --- 第1日

4/27 (金) くもり

Society of Cardiothoracic Anesthesiologists 主催(だと思う)の Thoracic Anesthesia Symposium が、Westin Boston Waterfront で今日と明日の2日間にわたって開催された。

どうも今年が記念すべき第1回らしい。
"Annual" と銘打っているので、これから毎年やるのだろう。
はっきりとは覚えていないのだが、来年はマイアミでやるって言っていたような気がする(まだ、SCA のホームページには明示されていない)。

登録の制限があったこともあり、とてもこじんまりした集会だった。
全部でせいぜい 百数十人ぐらいしかいないのでないだろうか。
遠い国から来たのは自分ぐらいかと思ったが、インドやオーストラリア、ドイツからの出席者もいた。

PBLD などの教育的なプログラムが多く、研究発表はどちらかというと「添え物」的な感じだった。
40 個弱のポスターのうち、正直なところ、原著論文としてアクセプトされそうなものは多くはなかったし・・・。

ウチの大学には肺移植はもちろんのこと、気管手術や VRS さえもないので、自分にとっては得るものが多かった。
でも OLV の呼吸生理を一生懸命やっているような人たち(特に日本人)にとっては物足りないかも・・・。
多くの教育講演で呼吸生理に関する研究が引用されると、そのうちの多くが日本人のものだったりするので、日本の Thoracic Anesthesia はそういう基礎的な部分ではとても強いように感じる。

PBLD も一つのテーブルに 10 人程度とこじんまりしており、日本麻酔科学会のものとは趣きが全く異なる。
ひとつが 30 分間で4つのテーブルを回るのだが、あまりにも慌ただしくて消化不良の感は否めない。
自分としては、ひとつの症例をつきつめる日本麻酔科学会のやり方の方がいいように思う。

その中でも勉強になったと感じたのは、ロボット手術の PBLD だ。
ウチではロボット手術もないのでイメージがあまりわかなかったのだが、患者の体位をテープなどでガチガチに固定しなければいけないこと、ロボットの邪魔をしないようにするために腎摘位に近い体位になること、そういった固定や体位に基づく合併症(特に神経学的後遺症)が起こりうること、麻酔科医の術中の患者へのアクセスが良くないことなどを学ぶことができた。

特に術者とのコミュニケーションの悪さは問題みたいで、大声で何度も注意を促さないといけないことがあるらしい。
突然血圧が下がったので昇圧薬を入れたり四苦八苦していたら、実は術者が心臓を専用の器具で押さえつけていたということが、あとからわかったということもあるのだそうだ。
麻酔科医が術野をスクリーンで必ずしも見ることができないことも、そういうことが起こる原因のひとつだとのこと。

あとは気がついたこととか、役に立ちそうな文献を必死にメモしたので、以下に残しておく。

術後の急性肺傷害関係の文献
Tumage WS, et al.  Chest 1993; 103: 1646-50.
Padley SP, et al.  Radiology 2002; 223: 468-73. (珍しい片側の PPPE の症例)

自分がバンクーバーでやった肺切除後の急性腎傷害に関する仕事も紹介されたが、輸液制限を行いがちな肺切除術において、輸液量が急性腎傷害のリスク因子でなかったことがわかった点は意義深いのだそうだ。
他人の目を通すと、自分の研究の別の価値が見い出してもらえることがあるものらしい。

10年前は HPV 抑制という点から吸入麻酔は良くないとされていたが、今は炎症反応抑制という点から吸入麻酔の方がいいとされているようだ。
Casanova J, et al.  Anesth Analg 2011; 113: 742-8.
De Conno E, et al.  Anesthesiology 2009; 110: 1316-26.
Schilling T, et al.  Anesth Analg 2005; 101: 957-65.

その他、酸化ストレスやサイトカイン関係の論文も、多数紹介されていた。
Schilling T, et al.  Anesth Analg 2005; 101: 957-65.
Funakoshi T, et al.  Br J Anaesth 2004; 92: 558-63.
Lases EC, et al.  Chest 2000; 117: 999-1003.
Misthos P, et al.  Eur J Cardiothorac Surg 2005; 27: 379-82.
Yulug E, et al.  J Surg Res 2007; 139: 253-60.  (遠隔臓器への影響)

虚血再灌流傷害
Reece TB, et al.  Ann Thorac Surg 2005; 79: 1189-95.

無気肺に関する総説
Duggan M, et al.  Anesthesiology 2005; 102: 838-54.

食道手術の合併症は、肺合併症と縫合不全の2つに分類できる。
肺合併症はさらに(誤嚥による)肺炎と ALI/ARDS の2つに分けられる。
術後のリークは血流の良否と関係がある。
リークを防ぐ上で硬膜外は有用かもしれないが、MAP は 70 mmHg をキープすべき。

Sakamoto K, et al.  Cytokine 1994; 6: 181-6.  (食道手術ではサイトカインが高い)
Sato N, et al.  Ann Surg 2002; 236: 184-90.  (ステロイド投与の影響を調べた)

VATS で低酸素血症の治療は難しいので、予防が重要になってくる。
リクルートメントは予防法のひとつ。
Park SH, et al.  Eur J Anaesthesiol 2011; 28: 298-302.  (リクルートメントのタイミング)
Abe K, et al.  J Anesth 2006; 20: 1-5.  (HFJV vs. CPAP)

(個人の意見として紹介されていたが)手術適応が微妙な症例では、硬膜外麻酔を積極的に行ないたい。
ppoFEV1 < 60%
ppoDLCO < 60%
Vo2max < 65% predicted
RV strain/failure

Mediastinal Mass Syndrome の管理方法
自発呼吸から人工換気になると、巨大縦隔腫瘍の重みが気道や肺循環系にのしかかってくる。
Erdos G, et al.  Eur J Anaesthesiol 2009; 26: 627-32.

2012年4月27日金曜日

遠かった東海岸 (ボストンにて)

4/26 (木) くもり時々小雨

ダラスでアメリカン航空を乗り継ぎ、ようやくボストンへたどり着いた。
家を出たのが午前8時で、ホテルに着いたのが日本の翌日午前6時なので、22 時間かかったことになる。

今日は JAL もボストンへの直行便はなかったみたいで、どうも毎日運航しているわけではないらしい。
帰りは直行便なので、往きよりはずっと楽できるはずで楽しみだ。

往きの飛行機の中で PBLD の予習をしたのだが、肺切除術の際の術前評価に関する項目がずいぶん多かった。
日本の実際の臨床でどのぐらいやっているのかよくわからないのだが、いくつかの欧州のガイドラインによると、一秒量と DLCO の予測値が 80% を下回る場合は運動負荷テストに進むようになっていた。

本格的な術前評価は自分にとっては弱いところなので、明日はこのあたりを中心に勉強してみたい。

2012年4月26日木曜日

麻酔科はお咎めなし

ゴールデンウィーク間近の成田空港はやけに混んでいて、搭乗手続きだけでなく、セキュリティ・チェックの通過にも、いつも以上に時間がかかってしまった。

それでもなんとか出発ゲートにたどり着き、いろいろと試行錯誤の末にインターネットへの接続に成功したところ。
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備忘録への記録が遅くなったが、先日、クリニカル・クラークシップに関する会議に出席した。
学生へのアンケート結果をもとに、今後さらにクラークシップを充実させようというものだ。

このアンケート結果によると学生が一部の診療科の教育に不満を持っているようなのだが、それがいかにもふだん忙しそうな診療科だけに、対策を講じるのも大変だと同情を禁じ得ない。

ちなみに麻酔科はアンケート期間中にまわってきた学生はいなかったみたいで、褒められもせず苦にもされず・・・といったところで、お咎めなし。

2012年4月18日水曜日

ポスターできた

バンクーバー留学時代の指導医と連絡を取り、来週後半に行なわれる Thoracic Anesthesia Symposium のポスターの内容がようやく決まった。

本来だったらウチの大学のプリンタ室を使ってポスターを印刷し、現地へ直接持って行くところだが、時間が十分にはないことと、飛行機での旅の途中でなくなる (lost baggage) リスクが皆無ではないことから、今回はインターネットを使って学会と提携しているプリント業者に依頼することにした。

こうすることで実際にポスターを持って行く手間が省けるし、ポスターをなくす心配もないというわけだ。

ただし費用はそれなりにかかり、印刷費用だけでなく現地で受け取るためのサービス料、さらには税金まで加えて 200 ドル弱かかってしまった。
安心を買ったというふうに解釈するしかないだろう。

2012年4月12日木曜日

RCS2012 --- 半分埋まった

東京麻酔専門医会の S 先生からのメールによると、リフレッシャーコースセミナーの参加申し込み者数が、現時点で予定定員の半数を超えたとのこと。

まだ臨床麻酔にも LiSA にも予告が載っていない段階なので、口コミとかフェイスブックなどでの宣伝が効いたということなのだろう。

残りの半数の席が、このブログを読んでくれた人たちで埋まってくれるととてもうれしい(笑)。

2012年4月11日水曜日

USB メモリ復活

数か月前に USB メモリの調子が突然悪くなり、パスワードを要求してこなくなっただけでなく、データに一切アクセスできなくなるということがあった。

B 社に問いあわせてみたものの回答はこれといってパッとしたものがなく、結局は再度フォーマットが必要だというものだった。

フォーマットを行なうということは中身のデータを失うというわけで、なかなか決心がつかずこの数ヶ月間放置していたのだが、かといっていつまでも放っておくわけにもいかず、ついに今日フォーマットを行なったというわけだ。

パスワードつきの USB メモリがあっさり壊れたのは、これが2回目だ。
パスワードつきでないものにくらべて、脆い印象が否めない。

2012年4月10日火曜日

CBT 問題作成講習会

当直明けだったが、眠い目をこすりながら CBT 問題作成講習会に出席した。

これはうちわの試験ではなく全国で使われるものだけに、問題の作り方にも厳密なルールがあるということを再確認することができた。
自分が過去に受けた国家試験なんかでもそういうルールはあったに違いないわけで、受ける側だと作り手側の苦労を感じることはないが、ひとたび作る側にまわるとたいへんな道のりであるように感じられる。

講習会では良くない問題の例が挙げられ、それを良いものに作り直されるプロセスが紹介されていた。
これを見ると良い問題を作るには相当の技量が必要とされるのは明らかで、この道に長けた人のアドバイスが欠かせないように思われる。

2012年4月4日水曜日

初めての「帰宅困難者」体験

昨日は異常に発達した低気圧のせいで、夕方から夜にかけて東京・御茶ノ水にも暴風が吹き荒れた。

一部の地下鉄を除いて大部分の鉄道が運転を見合わせる事態となり、たまたま自分が IC だったということもあるのだが、9時過ぎに大学を出ることになった。

あとから考えれば北千住から TX に乗り換えて、さらにバスを使うのが最善手だったと思うのだが、それに気づいたのは北千住を過ぎたあとだったので、そのまま終点の綾瀬まで行ってしまった。

そこでじっと待つのが次善手だったのだが、待つのは苦痛だったため、亀有方面にずんずん歩き始めることにした。
昨年の大震災では多くの人が帰宅困難者となってしまい、家まで歩くことを余儀なくされたことが記憶にあったということもあるのだが、ひょっとしたら亀有ではタクシーを拾えるかもしれないという淡い期待があったことも事実だ。

ところが亀有でもタクシーを待つ客で長い列ができており、そこでタクシーをつかまえる根気がなかった。
それでもそこでじっとしていれば良かったのだが、金町方面に歩き始めたのが痛恨の大悪手だった。

途中まで歩いたものの、線路と直角に走る河川敷に行く手を阻まれ、亀有まで戻らざるを得なくなってしまった。
この時点でもう足がパンパンになっており、疲れがどっと出てしまった。

亀有に戻ると幸いなことに常磐線が復旧しており、混み合ってはいたが家に帰ることができた。

大震災時を経験していない自分にとっては、これが初めてのいわゆる「帰宅困難者」体験だった。
いざという時は体力勝負だということを、痛感せずにはいられない。