2012年4月28日土曜日

Thoracic Anesthesia Symposium --- 第1日

4/27 (金) くもり

Society of Cardiothoracic Anesthesiologists 主催(だと思う)の Thoracic Anesthesia Symposium が、Westin Boston Waterfront で今日と明日の2日間にわたって開催された。

どうも今年が記念すべき第1回らしい。
"Annual" と銘打っているので、これから毎年やるのだろう。
はっきりとは覚えていないのだが、来年はマイアミでやるって言っていたような気がする(まだ、SCA のホームページには明示されていない)。

登録の制限があったこともあり、とてもこじんまりした集会だった。
全部でせいぜい 百数十人ぐらいしかいないのでないだろうか。
遠い国から来たのは自分ぐらいかと思ったが、インドやオーストラリア、ドイツからの出席者もいた。

PBLD などの教育的なプログラムが多く、研究発表はどちらかというと「添え物」的な感じだった。
40 個弱のポスターのうち、正直なところ、原著論文としてアクセプトされそうなものは多くはなかったし・・・。

ウチの大学には肺移植はもちろんのこと、気管手術や VRS さえもないので、自分にとっては得るものが多かった。
でも OLV の呼吸生理を一生懸命やっているような人たち(特に日本人)にとっては物足りないかも・・・。
多くの教育講演で呼吸生理に関する研究が引用されると、そのうちの多くが日本人のものだったりするので、日本の Thoracic Anesthesia はそういう基礎的な部分ではとても強いように感じる。

PBLD も一つのテーブルに 10 人程度とこじんまりしており、日本麻酔科学会のものとは趣きが全く異なる。
ひとつが 30 分間で4つのテーブルを回るのだが、あまりにも慌ただしくて消化不良の感は否めない。
自分としては、ひとつの症例をつきつめる日本麻酔科学会のやり方の方がいいように思う。

その中でも勉強になったと感じたのは、ロボット手術の PBLD だ。
ウチではロボット手術もないのでイメージがあまりわかなかったのだが、患者の体位をテープなどでガチガチに固定しなければいけないこと、ロボットの邪魔をしないようにするために腎摘位に近い体位になること、そういった固定や体位に基づく合併症(特に神経学的後遺症)が起こりうること、麻酔科医の術中の患者へのアクセスが良くないことなどを学ぶことができた。

特に術者とのコミュニケーションの悪さは問題みたいで、大声で何度も注意を促さないといけないことがあるらしい。
突然血圧が下がったので昇圧薬を入れたり四苦八苦していたら、実は術者が心臓を専用の器具で押さえつけていたということが、あとからわかったということもあるのだそうだ。
麻酔科医が術野をスクリーンで必ずしも見ることができないことも、そういうことが起こる原因のひとつだとのこと。

あとは気がついたこととか、役に立ちそうな文献を必死にメモしたので、以下に残しておく。

術後の急性肺傷害関係の文献
Tumage WS, et al.  Chest 1993; 103: 1646-50.
Padley SP, et al.  Radiology 2002; 223: 468-73. (珍しい片側の PPPE の症例)

自分がバンクーバーでやった肺切除後の急性腎傷害に関する仕事も紹介されたが、輸液制限を行いがちな肺切除術において、輸液量が急性腎傷害のリスク因子でなかったことがわかった点は意義深いのだそうだ。
他人の目を通すと、自分の研究の別の価値が見い出してもらえることがあるものらしい。

10年前は HPV 抑制という点から吸入麻酔は良くないとされていたが、今は炎症反応抑制という点から吸入麻酔の方がいいとされているようだ。
Casanova J, et al.  Anesth Analg 2011; 113: 742-8.
De Conno E, et al.  Anesthesiology 2009; 110: 1316-26.
Schilling T, et al.  Anesth Analg 2005; 101: 957-65.

その他、酸化ストレスやサイトカイン関係の論文も、多数紹介されていた。
Schilling T, et al.  Anesth Analg 2005; 101: 957-65.
Funakoshi T, et al.  Br J Anaesth 2004; 92: 558-63.
Lases EC, et al.  Chest 2000; 117: 999-1003.
Misthos P, et al.  Eur J Cardiothorac Surg 2005; 27: 379-82.
Yulug E, et al.  J Surg Res 2007; 139: 253-60.  (遠隔臓器への影響)

虚血再灌流傷害
Reece TB, et al.  Ann Thorac Surg 2005; 79: 1189-95.

無気肺に関する総説
Duggan M, et al.  Anesthesiology 2005; 102: 838-54.

食道手術の合併症は、肺合併症と縫合不全の2つに分類できる。
肺合併症はさらに(誤嚥による)肺炎と ALI/ARDS の2つに分けられる。
術後のリークは血流の良否と関係がある。
リークを防ぐ上で硬膜外は有用かもしれないが、MAP は 70 mmHg をキープすべき。

Sakamoto K, et al.  Cytokine 1994; 6: 181-6.  (食道手術ではサイトカインが高い)
Sato N, et al.  Ann Surg 2002; 236: 184-90.  (ステロイド投与の影響を調べた)

VATS で低酸素血症の治療は難しいので、予防が重要になってくる。
リクルートメントは予防法のひとつ。
Park SH, et al.  Eur J Anaesthesiol 2011; 28: 298-302.  (リクルートメントのタイミング)
Abe K, et al.  J Anesth 2006; 20: 1-5.  (HFJV vs. CPAP)

(個人の意見として紹介されていたが)手術適応が微妙な症例では、硬膜外麻酔を積極的に行ないたい。
ppoFEV1 < 60%
ppoDLCO < 60%
Vo2max < 65% predicted
RV strain/failure

Mediastinal Mass Syndrome の管理方法
自発呼吸から人工換気になると、巨大縦隔腫瘍の重みが気道や肺循環系にのしかかってくる。
Erdos G, et al.  Eur J Anaesthesiol 2009; 26: 627-32.

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