2012年4月29日日曜日

Thoracic Anesthesia Symposium --- 第2日

4/28 (土) 晴れ

第2日とは言っても最終日なので、午前中にワークショップと教育講演、および pros&cons があっただけで終わりとなった。

ワークショップは4つの場所を30分ごとにくるくる回るというもので、どこから回り始めるかがあらかじめ指定されている。
自分の場合は 挿管困難 → 気管支ブロッカー → 傍脊椎エコー → 肺のエコー と回るようになっていた。

なぜかよくわからないが、挿管困難のワークショップでは GlideScope が紹介されず、そのかわりにダブルルーメンチューブ用のエア・トラックが紹介されていた。

ダブルルーメンチューブを気管支ファイバースコープを使って挿管しようとしても必ずしもうまくいかないのは、ファイバースコープの長さがタブルルーメンチューブの挿管には十分ではないということに加え、先端がシングルルーメンチューブよりも固いこととか、ファイバースコープの径とチューブの内腔の間のアソビの部分が問題になるからなのだそうだ。

会場にいる麻酔科医の経験としては、挿管困難患者では一度シングルルーメンチューブを入れて、それからダブルルーメンチューブに入れ替えるという人が多いようだった。
チューブの径は失念したが、困難気道モデルのマネキンを用いたデモでは、シングルルーメンチューブに 14Fr と 11Fr のチューブエクスチェンジャーを1本ずつ入れて、それぞれダブルルーメンチューブの気管ルーメンと気管支ルーメンを通して入れ替えるという方法を紹介していた。

気管支ブロッカーのワークショップではさまざまなブロッカーが紹介されていたが、ちょうど隣が挿管困難のワークショップだったということもあり、挿管困難にも大いに役に立つという印象が非常に強くなった。
ICU への帰室時に、ダブルルーメンからシングルに戻さなくてもいいし・・・。

Cohen の意見としては、左肺の切除や右の中または下葉切除ではどちらでもいいのだが、右上葉切除の症例ではCohen のブロッカーが Fuji ブロッカーに優るとのこと。
Cohen のブロッカーは先端が柔らかいので抜けないが、Fuji ブロッカーは先端が硬いので術者の操作によって抜けてしまうらしい。

(余談: 第1日の夜の懇親会の時に富士システムズの方とお会いした時に教えていただいたのだが、どうやら 「Fuji ブロッカー」という呼び方は正しくないのだそうだ。しかし Narayamaswamy らの論文などで Fuji ブロッカーはある意味世界的に有名になったと思うし、バンクーバーの指導医も Fuji ブロッカーと呼んでいたぐらいなので、これからの修正はいろいろな意味で難しいかも・・・と思う。)

傍脊椎ブロックのワークショップでは、名古屋大学の Dr. Shibata のエコー画像が紹介されていた。
Shibata T, et al.  Anesth Analg 2009; 109: 996-7.
どうやら、エコー上で横突起や肋骨の影と壁側胸膜の間に薬液を投与するのがコツのようで、うまくいくと壁側胸膜が(患者の)前方に移動するらしい。
傍脊椎ブロックのやり方は決してひと通りではなく、さまざまなやり方がある。
バンクーバー時代の指導医が自身のやり方を主張していたが、ワークショップの担当者との間でいまひとつ話がかみあっていないような印象を受けた。

術野から入れるという方法もあり、Sabanathan という外科医が 1988 年に行なったのが初めてらしい(?)。
壁側胸膜外をはがしてポケットのような空間を作り、そこをめがけて皮膚の上から針を刺してカテーテルを挿入する (Sabanathan Technique) とのこと。

傍脊椎ブロックはしばしば硬膜外ブロックと比較されるが、傍脊椎ブロックのやり方によって結果はずいぶんと変わってくるのだそうだ。
たとえばエコーを用いずにブラインドで傍脊椎ブロックを行うと (Messina M, et al.  Minerva Anestesiol 2009; 75: 616-21)、傍脊椎ブロックを過小評価するような結果につながることになる。

それから、傍脊椎ブロックは "extrapleural block" と同義らしいということを初めて学んだ。
恥ずかしながら自分のホームページでは別物として扱っていたので、帰国したら修正することにする。

教育講演は面白かったが、備忘録に残すようなことはそんなになかったような気がする。
話の流れから、"breath down" というのは吸入麻酔薬で導入することを意味するらしい(?)ことを知った。

Pros & Cons は誤解を恐れずに言えば、完全にアソビの範囲内だったと思う。
患者にどのサイズのダブルルーメンチューブを用いるかとか、つねに左用のダブルルーメンチューブを用いるのがいいかどうかとか、エビデンスに基づく診療というよりも、個々の麻酔科医の信念に基づくことがらについて扱ったもの。

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