2011年10月29日土曜日

BIS とホットショット

右の写真はシカゴの川の北側で見つけた、おそらくマリリン・モンローの像。
風にひらめくスカートの内側をわざわざ写真におさめている人もいたが、そういうことは自分にはとうていできないと思った。
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復職後2カ月近く経つが、いまだに戸惑う(戸惑わせる)ことがしばしばある。

先日は、ウチの全てのオペ室のモニターに BIS が組み込まれているのを知らず、BIS のセンサーを持ってきた研修医に BIS の本体を持ってくるように指示してしまった。
かつては BIS の本体を運んでいたことを知らない研修医が戸惑ったことは言うまでもない。

心外ではホットショットといって、加温した心筋保護液と血液とが人工心肺から投与されていたのを初めて見た。
挿管とかエピドラの腕が落ちたという実感は今のところないが、日常のふとした瞬間に2年間で失った(得られなかった)ものがあることに気づく。

2011年10月26日水曜日

臨麻の予演会

もう本番まであまり時間がないのだが、夕方、臨麻の予演会が行なわれた。
ウチからは3題出されるもようで、全て症例報告。

ビックリするぐらい珍しい症例だというわけではないのだが、それでもああでもない、こうでもないと妙に盛り上がった。
いろいろな考え方があるから、臨床はおもしろい。

また、いわゆる「同門」だとだいたい意見は似通ってくるものだが、M さんのように全く異なるバックグラウンドの麻酔科医が一人混じると新鮮な意見を聞くことができて、学会の準備としてはとても良かったんじゃないかと思う。

2011年10月25日火曜日

英語 de 朝カン

今日から毎週火曜日の朝のカンファレンスは、英語で行われることになった。
ウチの教室員にとっては目新しい試みのようだが、自分が知る限りでは過去には同じことをウチでもやったことがあったようだし、一部の臨床科や基礎研究部門ではそういう慣習ができあがっているらしい。

なので、できればこれを新しい伝統として続けていきたいものだ。
ちなみに今日のイン・チャージは自分だった。

タイから来た M さんにカンファレンスの内容を理解してもらうことがねらいのようだが、これからも長くやっていれば、教室員の英語力もまちがいなくアップするはずだと思う。
言語野がどうのこうのと言っても、結局ネイティブじゃない人ががしゃべれるようになるかならないかは、単に血のにじむような努力をするかしないかだけのことだと感じている。

2011年10月20日木曜日

ASA 最終日 --- 自分の発表

10/19 (水) 雨のちくもり

ASA 最終日の午前8時からの oral presentation で、バンクーバーでやった仕事の一部を発表した。
会場に USB メモリを持って行くことになっていたのだが、係員が何を勘違いしたのか別の部屋に持って行くように指示したりして、なぜか開始前にひと悶着あった。

1時間半に6人が発表したのだが、聴衆は発表者も含めて最大 15 人程度といったところ。
最終日の早朝に、雨の中、わざわざやって来る人はいないというわけだ。

聴衆の中に、なぜか自分の発表をビデオに撮らせてほしいと言う人が一人いた。
ポスター発表と違って聴衆が遠くにおり、質問が聴きづらくてちょっと困ってしまったが、座長がうまいこと助け舟を出してくれた。
聴衆からの質問の内容は容易なものばかりで、座長の質問も想定範囲内だった。

発表の後、ダッシュで空港へ。
新しいシステムが導入されたらしく、セキュリティチェックのところでバンザイしつつ X 線検査を受けることになった。
X 線検査が行われるようになったためか、セキュリティでのピリピリ感が以前よりも幾分緩和されたように感じた。
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昨日までにシカゴで撮った写真のうち、いくつかをそれぞれの日にちのところにアップロードした。
 

2011年10月19日水曜日

ASA 第4日

10/18 (火) くもり

昨夜はなぜかほとんど一睡もできず、朝を迎えてしまった。
ジョン・ハンコック・センターにおみやげを買いに行った時は、それでもまだ元気だったが、午後になるとどうにも眠くてたまらず、リフレッシャー・コースの時はうつらうつらしてしまった。
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Stephen D. Surgenor.  Transufusion Theapy: Optimal Use of Blood Products.
前に聞いたことがあるような内容だった。同じ演者だったかもしれない。

輸血に基づく感染症のリスクは減少している。
現在は HIV も HCV もリスクは 1:1,000,000 以下。

今は感染症以外のリスクが問題。
ABO 不適合 → 急性溶血反応 リスクは 1:100,000 以下
Transfusion-related immuno-modulation  癌の再発率、sepsis、肺合併症、創感染症などを増やし、長期生存率を下げる

Universal FFP は AB 型
TRALI の原因としては、ドナーの抗白血球抗体の存在が考えられている。
女性の血液由来の FFP は、TRALI のリスクが高い。

大量輸血の定義
24 時間以内に 10 U 以上の赤血球輸血
小児では、24 時間以内に循環血液量分の赤血球輸血
アシドース、低体温、凝固障害が起こりうる
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Uday Jain.  Patient Safety During Critical or Difficult Intubation: Avoiding and Extricating Oneself from, Cannot Intubate, Cannot Ventilate Situations

CICV では Bail Out アルゴリズムから始まる。
1) 助けを呼んで difficult airway cart を手に入れる
2) 2 person technique を行う
3) 口咽頭エアウェイや LMA などの rescue airway を挿入する

アルゴリズムがうまく行かなかったら耳鼻科を呼んで、surgical airway を試みる。Surgical airway には3種類あって、
① 6 mm の気管チューブを輪状甲状間膜から
② Melker cricothyrotomy
③ 14 ケージのカテか専用のカテーテルを用いて、Transtracheal Jet Ventilation (TTJV) を行う。100% O2 10-20 PSI で(50 PSI は圧外傷などのリスクが高い)行なう。

2011年10月18日火曜日

ASA 第3日

10/17 (月) 晴れ

午前、午後と Thoracic Anesthesia 関係のリフレッシャーコースがあり、それぞれ参加してきた。
Jerome Klafta.  Strategies for success in one-lung anesthesia.
Edmond Cohen.  New developments in thoracic anesthesia.

演者が変わっていないので仕方がないのかもしれないのだが、内容的には2年前のものと変わっておらず、新たな情報はほとんど追加されていなかった。

この5年ぐらいは保護的一側肺換気がはやったり、新たなデバイスが開発されたりして、Thoracic Anesthesia の進歩は著しかったが、とりあえず落ち着いたということなのだろう。
それでも自分のホームページで紹介したかった論文がいくつか紹介されたので、とりあえずそれをここにメモしておくことにする。

リークテストの図がある論文 J Cardiothorac Vasc Anesth 1997; 11: 599.

左気管支が極端に細く、左用 DLT が入らなかった。 J Cardiothorac Vasc Anesth 2002; 16: 260.

ダブルルーメンチューブのサイズ選択には、現時点では合意がみられない。 J Cardiothorac Vasc Anesth 2003; 17: 287.

35-37 Fr のDLT の気管支ルーメンの外径を測ったら、同じサイズのチューブの間でもばらつきが大きく、違うサイズどうしの間での径の重なりが大きい。 Anaesth Intensive Care 2003; 31: 50.

(「盲目的に」という意味だと思うが、)左用 DLT を挿管すると、右気管支に入ってしまう頻度が案外と高い。 J Cardiothorac Vasc Anesth 2003; 17: 289.

DLT の最適な深さを予測するのは困難。 J Cardiothorac Vasc Anesth 2002; 16: 456.

時々しか Thoracic Anesthesia をやらない麻酔科が気道確保をすると、DLT や BB などどのデバイスを用いてもうまくいかないことが多い (38%)。  Anesthesiology 2006; 104: 261.

肺全摘後で気管気管支がある症例の残存肺手術に、BB を2本使って気道確保を行なった。 Anesth Analg 2011; 112: 688-92.

Passive ventilation の概念。非手術側肺に一側肺換気を行なうと、圧変化が伝わるために手術側肺(非手術側肺)が受動的に換気される。 Anaesthesia 1999; 54: 437.

内因性 PEEP の説明に使える図。 Anesthesiology 2004; 101: 1129.

CPAP が一側肺換気中の酸素化を改善することについては約束されている。 Anesthesiology 1981; 55: 381.

Lung isolation は健側の肺を血液や膿から守ることで、この場合はダブルルーメンチューブが必要になる。
Lung separation は手術のために換気を分離することで、この場合は気管支ブロッカーでいいだろう。

Cohen blocker では先端がコントロールできる wheel がついているので、左右どちらの気管支にも楽に入れることができる。
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心臓手術の麻酔のパネルでは、Vasoplegia に関して質問が集中していた。

Vasoplegia の発生頻度は 10% で、on pump で 7%、off pump で 3%。
リスクは術前のヘパリン、ACE-I、βブロッカー、カルシウム拮抗薬、カテコラミンの枯渇、LVEF < 35%、プロタミンの使用、長時間の CPB。

治療は 0.02-0.04 U/min 程度のバゾプレッシン、メチレンブルー。
メチレンブルーは MAO-I であり、脳内のセロトニン分解を阻害し、serotonin syndrome を起こしうる。

2011年10月17日月曜日

ASA 第2日 --- 指導医との再会

10/16 (日) 雨のち晴れ

Thoracic Anesthesia のパネルでバンクーバーの指導医がしゃべることになっていたので、それに参加しようと思ったのだが、建物の中で迷ううちにすっかり遅くなり、部屋に入れなくなってしまった。
どうやら中は盛況で、消防法に基づいて部屋の中の人数が制限されたらしい。

それで仕方なく、パネルが終わるころを見計らって外で待ち伏せ、結局は会うことができた。
バンクーバーで収集したデータの一部に関してはまだ学会発表も論文作成もしていないので、それをどうするかについて話し合い、さらに東京での仕事の進行について相談した。

こうして振り返ってみると、バンクーバーではデータの収集はできたものの、まだ実質的には何も成し遂げていないことに気が付かさせられる。
「留学」はまだ終わっておらず、学問を修める道はこれからも続くというわけだ。
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今日の午後は Anesthesia Society of Regional Anesthesia (ASRA) のパネルに参加した。

ブピバカインでの局麻中毒による心停止の際のおすすめとして・・・
1) 人工呼吸などの蘇生処置をしながら、 20% Lipid 1.5 ml/kg ボーラス
2) 続いて Lipid を 0.25-0.5 ml/kg/min 30分間 持続投与
3) 必要なら、ボーラスを2回
4) CPB を準備する。決してあきらめないことが重要。

局麻中毒 (local anesthetics systemic toxicity) の際の「チェックリスト」が、ASRA にも存在するらしい。
(昨日もそうだが、「チェックリスト」がすごくはやっている!)
局麻中毒による死亡症例は決して少なくなく、チェックリストで防ぐことができると考えられている。

抗凝固薬を慢性的に使用している時の硬膜外カテの抜去については、
INR< 1.5 の時にカテを抜くようにする、
1.5 < INR < 3 では注意深く抜去し、その後神経症状が起こらないかどうか注意深く観察する。

Dabigatran、Rivaroxaban は新しい抗凝固薬
合併症として出血が起こりうる。その場合は DDAVP、hemodialysis などで対処する。FFP は用いない。

2011年10月16日日曜日

ASA 第1日

10/15 (土) 晴れ 風が強くて寒い!

Opening Session: Target: Reducing Inpatient Surgical Mortality to Less Than 1% Globally

日本に戻った時に、ウチの職場で Sign In、Time Out、Sign Out というシステムがそれぞれ仮導入されていた。これらはどうも "Surgery Checklist" というらしいのだが、これによって手術に基づく合併症や死亡率が減少したとのこと。
(Sign In で自分の名前を改まって名乗るのが、なんとなく気恥ずかしいというかちょっと抵抗があるのは、アメリカでもそんなに変わらないらしい)

それからパルスオキシメータを用いずに手術を行っているところがいまだにあって、発展途上国にパルスオキシメータを寄付するような運動も行われているらしい。
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Anesthesia Patient Safety Foundation Workshop: Current Anesthesia Patient Safety Issues - Help Set the Priorities for Immediate Short -Term Resolution

麻酔による死亡率は減少しているが、medication error は減っていない。麻酔中は ①一人で投薬すること、②(必要に応じて)すぐに投薬すること、③担当外科医からの指示によることが多いこと、④外部からのチェックがほとんどないこと、が問題になってくる。
(ウチの Y 先生が JOA に載せたのデータが引用されていた。)

患者を ICU とか病棟に移動させた時に、コミュニケーション・エラーが起こりうる。午前中に話題になった "Check list" がここでも役立つ可能性があるらしい。

座位の脳神経外科手術における脳血流のコントロールの問題とからめて、脳血流の自動調節能の下限は、従来言われてきたものよりも高いらしい。Less permissive hypotension なのだと言っていた。

残存筋弛緩が術後(呼吸器)合併症をもたらすことは知られているが、ASA には筋弛緩モニタリングに関する十分なガイドラインが現時点では存在しない。

オペ室での火災を分析すると、その大部分のケースでは鎮静中の患者で高濃度の酸素が投与されている。2008年の recommendation では、①高濃度の酸素を投与する時はラリマなどで気道を確保すべき、②鎮静中の患者で気道が確保されていない(開放されている)時は高濃度の酸素を投与すべきではないとのこと。①については、会場の参加者の多くが賛同していた。

腹臥位での脊椎手術後の失明の頻度は、0 ~ 1:500、あるいは 1:1800 という報告がある。かなりまれだが起こると重篤。男性、肥満、Wilson frame、麻酔時間、出血量が ischemic optic neuropathy のリスク因子。コロイド投与は保護的に作用する。
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Refresher Course Lecture --- Perioperative Management of Petients With Respiratory Diseases

術前に最適な状態にもっていくことが重要
・術前に十分に呼吸機能を評価しておく
・ステロイドについてはルーチンにやるものではなく、必要に応じて行う。コルチコステロイドは麻酔導入後の喘鳴の頻度を減らし、気道反応性や炎症のコントロールに役立つ。
・禁煙は手術前の短期間でも役立つ。
・Incentive Spirometry

手術中の人工呼吸
・低一回換気量、PEEP、リクルートメント
・100% 酸素は避ける
・呼吸機能が悪くても、自発呼吸にはよく耐えることがある。

合併症を避ける上で全麻よりも区域麻酔が優るかどうかは、議論の余地がある。

2011年10月15日土曜日

シカゴに着きました

10/14 (金) シカゴは 晴れ

ASA で発表するためにシカゴへやって来た。

オヘア空港からブルーラインに 40 分ほど乗るとダウンタウンに出られるので、交通がとても便利だと思う。

さっそく Hyatt Regency Chicago まで川沿いを歩き、レジストレーションを済ませた。

空港に着いた時はちょっと暑いぐらいだったのだが、日が暮れると風が強いこともあって肌寒い。

2011年10月12日水曜日

ASA 予演会

タイから研究者として招かれた麻酔科医 M さん、今日で2日目。
自己紹介の時に日本語であいさつしていたのには驚いた。

きっと人知れず、何回も練習したんだろうなあ。
バンクーバーで英語でプレゼンした時のことを思い出してしまう。

夕方は ASA の予演会あり。
いろいろな質問や意見をいただき、とても勉強になった。

同僚とはどうしても日本語でのディスカッションとなってしまいがちだが、M さんが英語で質問してくれたので、ちょっと本番の気分を味わうことができたのが収穫。

2011年10月10日月曜日

このスタイルがいい

メモ書きのような自分のホームページを開設してからずっとそっちに日記を書いていたが、どうもホームページビルダーは慣れないし、自分のパソコンからでないと書き込めないことから、やっぱりこのスタイルに戻ることにした。
 
今まで書いた分を、これから少しずつこちらに移していくつもり。
 
なので、いずれは今日以前の日付の日記がこのブログ上に現れることになると思うが、それはあくまでも後付けです。

今日が実質的な初日ということにしておきたい。

2011年10月9日日曜日

日本心臓血管麻酔学会 (過去の投稿)

日本心臓血管麻酔学会のために、旭川まで行ってきた。
写真は旭川で食べたラーメン。

いつも思うことだが、心臓血管麻酔学会は学ぶことが多くて、本当にためになると思う。

例えば今回学んだこととして、胸腹部大動脈瘤のオペでは肋間動脈を再建しなくても、対麻痺の頻度はわずか 2% なのだそうだ。
脊髄は多くの側副血行路から血流の供給を受けているという考え (Collateral network concept) があるらしい。

術中や術後に MEP の信号が消えても、血行動態を維持することで復活することもあるのだそうだ。