2012年6月7日木曜日

日本麻酔科学会 学術集会 第1日

初日から役に立つおもしろいプログラムが満載だったので、いくつかメモ書きとして残しておく。
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【招請講演: 周術期急性腎傷害】

「正常血圧性虚血性急性腎傷害」
演者の先生がこれだけは覚えて帰るようにと強調していた項目のひとつ。
輸入細動脈と輸出細動脈が微妙なバランスを保つことで 90% 以上の腎血流が維持されているが、輸入細動脈の収縮と輸出細動脈の拡張によって適切な腎血流が得られず、腎が虚血に陥ってしまうという病態。

輸入細動脈の緊張はプロスタグランディンが、輸出細動脈はアンギオテンシンII が司っているらしい。
ACE-I や ARB、NSAIDS、造影剤の投与がリスク因子となる。
敗血症では腎血流が必ずしも低下していないので、やはり輸入細動脈と輸出細動脈の緊張のアンバランスが起こっているのではないか、という仮説があるとのこと。

腎での autoregulation は平均血圧 80-180 mmHg の範囲内で維持されるが、これは脳での autoregulation にくらべてやや高めの範囲である。

「色素性腎症」
人工心肺による溶血で遊離ヘモグロビンが生じ、不安定な Fe イオンが AKI をもたらす。

敗血症性ショック患者において、輸液過剰にするとアウトカムが悪くなる。
Payen D, et al.  Crit Care 2008; 12: R74.
Bouchard J, et al.  Kidney Int 2009; 76: 422-7.

ARDS 患者では、肺保護換気によって AKI の頻度が低下する。
Imai Y, et al.  JAMA 2003; 289: 2104-12.
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【企業共催セミナー: 呼吸数モニタ RRa 】

のどにシールを貼って、もともとはパルスオキシメータとして使われている器械につなぐだけで、呼吸数がモニタリングできる。

手術室での使用よりは、術後の呼吸管理で使われることを想定しているらしい。
麻薬系鎮痛薬などによる呼吸抑制をモニターするには有用だろうと思われる。

ベアハッガーをのどのあたりで使っているような場合の呼吸数の信頼性には、やや問題があるらしい。(音が問題なのか、振動のようなものが問題なのか、よくわからないが・・・)
これからアルゴリズムの精度を上げていく途上にある。
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【招待講演: 呼吸器科医からみる周術期 NPPV 管理】

麻酔科医にとっては NPPV は必ずしもなじみ深いものではないが、とてもわかりやすい解説だったと思う。

狭義の NPPV はpressure support を中心としたもので、広義の NPPV はさらにそれに CPAP を加えたもの。
急性期に用いられる器械としては、レスピロニクス社の BiPAP Vision と V60。
V60 は新しいタッチパネル式のもので、駆動音も静か。

モードには S/T モードと CPAP モードがあり、換気補助の必要性に応じて使い分ける。
同調性が悪い時は CPAP モードとする。
設定の例としては、S/T モードでは EPAP 4-5 cmH2O、Vt が 8 (6-10) ml/kg となるように IPAP を決める。
CPAP モードでは 8-10 cmH2O。

COPD では内因性 PEEP に拮抗する意味で EPAP を高めとする。
術後 ARDS、無気肺でもやはり EPAP 高め。

Nasal CPAP はP/F ratio を改善するが、血行動態には影響を与えない。
Kindgen-Milles D, et al.  Acta Anaesthesiol Scand 2002; 46: 860-5.

肺切除後の急性呼吸不全で NPPV を使うと、再挿管率が低下し、死亡率も低下する。
Auriant I, et al.  Am J Respir Crit Care Med 2001; 164: 1231-5.

腹部大動脈瘤術後に NPPV を使うと P/F ratio が改善する。
Kindgen-Milles D, et al.  Chest 2005; 128: 821-8.

腹部手術後に重篤な低酸素血症を呈した患者で NPPV を使うと再挿管率が低下する。
Squadrone V, et al.  JAMA 2005; 293: 589-95.
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【シンポジウム: 抜管しても大丈夫?】

広い会場が満席になるぐらいものすごい数の聴衆が集まり、この話題への関心の高さをうかがわせるものだった。
座長の先生がおっしゃる通り、抜管に対する考え方が人によってまちまちなためにまとまることはなかったが、逆にそれだけにディスカッションが盛り上がっておもしろい内容となったと思う。

深い麻酔状態で抜管することを "Deep extubation" と呼ぶが、これは利点が多いかわりにリスクも高く、高等テクニックだと考えられている。
Difficult Airway Society Extubation Guidelines Group.  Anaesthesia 2012; 67: 318-40.

フェンタニル 2ug/kg 静注で抜管時期の咳を 90% 抑制可能。
Yoo YC et al.  Acta Anaesthesiol Scand 2011; 55: 1215-20.

Deep extubation (自発呼吸あり、刺激しても体動なし、吸引しても咳なし)できる最低のセボ濃度は、MACext 1.64%、MACext95 1.87%。
Deep extubation での問題点として、気道閉塞が必発、安全な気道確保できるか不明、相当な時間がかかる、手術室の汚染が挙げられている。

小児患者においてのおすすめの抜管のやりかたは、
患児が起きる前に陽圧を加えながら抜く。セボ 0.2-0.25% を目指す。その前後にプロポフォール注入中止。

小児患者において deep extubation と awake extubation を比較したが、合併症には差がなかった。
Patel RI, et al.  Anesth Analg 1991; 73: 266-70.

抜管前にプロポフォール静注で、咳を減らすことができる。
Pak HJ, et al.  Korean J Anesthesiol 2011; 60: 25-9.

小児患者において麻酔中に側臥位にすると、気道の体積(容積)が増加する。
Litman RS, et al.  Anesthesiology 2005; 103: 484-8.

喉頭機能の評価のやり方として、
1) 食道癌術後とか抜管にリスクを伴う患者では、抜管前の内視鏡による評価。深吸気時に声門が開大することを確認。
2) カフリークテストは簡便だが、敏感度、特異度ともに低い。6L/min のフローでカフを脱気させて、気道内圧が 20 cmH2O 以下かどうか。(あるいはカフを脱気させて 20-25 cmH2O の陽圧をかけて、リークがあるかどうか。)

内視鏡による評価では一度は抜管せざるをえないが、筋弛緩が効けば通常は喉頭は開大するので、リスクが著しく増大するというわけではない。

一方で、カフリークテストは完璧に喉頭機能を予測できるわけではないとする報告もある。
Kriner EJ, et al.  Respir are 2005; 50: 1632-8.
Engoren M.  Chest 1999; 116: 1029-31.

エコーで喉頭浮腫がわかるらしい。
Kundra P, et al.  Anaesthesia 2012; 67: 301-2.
Ding LW, et al.  Eur Respir J 2006; 27: 384-9.

陰圧性肺水腫の原因の 50% が抜管後喉頭痙攣で、健常青年に多い。
オピオイドは気道反射抑制作用があるため、好都合である。

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